明るくて清潔なキッチンで朝ごはんを食べていること。どこかから鳥の啼き声が微かに聞こえる。ダイニングテーブルの上には一輪挿し。ピザトーストとマカロニサラダと野菜ジュース。そしてまだ眠っている母親。熱は下がったのだろうか。部屋に戻るとまずバックのなかを探った。やはりスケジュール帳があった。今日の予定はなんだろう?今日の日付の欄にはひとこと「会いに行く」とあった。会いに行く?誰に会いに行くのだろう?友達だとこんな書き方はしないので、やはり性行為ーフレンド?それとも秘密の関係?どちらにせよ、約束の時間を過ぎれば相手から電話があるだろう。私はそれを待つしかない。急いで着替えて、朝の街へ出ることにした。母親の寝室のドアにメモを書いて挟んでおいた。「すぐ戻ります。無理はしないこと。××」不思議なくらいに天気はよく、空気も澄んでいた。マンションの近くにある商店街まで歩く。道行く人は誰もが初めて会う人なのに、どことなく親近感があった。果物屋に並んだ私の苦手なグレープフルーツまでも輝いて見える。コロッケ屋に出来た長い行列。オープンーカフエに集う人たちの笑顔。スーパーで楽しそうに買い物をする主婦たち。見たことのないものを以前に見たように感じることをなんと呼ぶんだっけ?そうだ。デージヤービュ。何もかもがノスタルジーを含んだ未来を連れてくる。駅まで歩いて、今度は住宅街を歩く。なんでもない住宅のすべてが愛の巣ばかりに思えてくる。どの家も幸せに満ちているとなぜか確信する。もう母親は起きているだろうか。マンションの方向へと急ぐ。見上げると大きく聳えるマンションが見えるので道に迷うことはなかった。