デッサンの勉強より腕のよい魔法使いになるために、一九七三年に北里大学で形成外科を始めるに当たって、僕は次のことを試みた。まずみんなでデッサンを勉強することである。といっても絵が上手になるのが目的でない。カルテに患者さんの顔や手術操作をスケッチするから、絵はうまいにこしたことはないが、目的は観察眼の養成にある。言葉を変えれば、いかに自分の目が不正確かを知ってもらうことにある。そして、多少なりとも美的センスが養われれば、それにこしたことはない。週に一晩、専門家に指導を仰ぐ。これを三ヵ月続けると結構デッサン力がつく。初めは静物画そして最後は自画像で締めくくる。これを毎年続けるうち、副産物として面白いことを発見した。自画像がその人の性格を暴露するのである。たとえば性格的にバランスのとれた者は、やはりバランスのとれた韻を描く。ある時、頭はキレるが、はらはらするような手術ばかりする男がいた。その自画像はゴッホそっくりだった。よし、これからは採用試験の面接に自画像描きを入れようという話にまでなった。
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